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■デジタルデトックスとは?
自分を見つめ、生活を見直す
―最近、「デジタルデトックス」という言葉をよく耳にしますが、どういうものなのですか?
暇があればスマートフォンを触っているという人は多いと思いますが、こういう生活は知らないうちにストレスや疲労が貯まってしまいます。デジタル機器から一定期間離れることでストレスや疲労を和らげ、デジタル機器との付き合い方や生活習慣を見直そうという取り組みがデジタルデトックスです。
―現代人には必要なことですね。ただ実践するのはなかなか難しそうです。
物理的にデジタル機器から離れる方法として「デジタルデトックスキャンプ」というものがあります。ネット・ゲーム依存の治療法でもあるのですが、グレイス・ロードも今年2月に開催しました。
―キャンプですか?
はい。自然体験を切り口にした2泊3日のプログラムで、山梨県内の「みのぶ自然の里」というコミュニティ施設で開きました。最寄りのコンビニエンスストアまで歩いて1時間ぐらいかかる山の中で、景色も空気もとてもきれいな場所です。そんな自然豊かな環境の中で、デジタル機器を一切使わずに過ごしました
―非日常の体験ですね。どんなことをしたのですか?
自然体験として薪割りや竹とんぼ作りをしました。どちらもコツが必要で、うまく割れなかったり飛ばなかったりもしましたが、それがすごく盛り上がったんです。失敗も含めてみんなで楽しみました。散歩やスポーツもしましたし、食事も自分たちで用意しました。割った薪を使ってのバーベキュー、思い思いの具材を載せたピザ、山梨の郷土食「ほうとう」は麺作りから挑戦したんですよ。わいわい作って、もりもり食べました。夜は焚火を囲んで星を眺めながら1日の振り返りをしたのですが、話は尽きませんでした。
―そういう体験にはどんな効果が?
現実世界のリアルな体験に目を向け、自分にとって大切なものやネット・ゲームに代わる楽しみ、人とのコミュニケーションの楽しさなどに気づくことができます。同じ問題を抱えた者同士なので悩みや経験を分かち合えるという点でも意味があります。依存の背景には何らかの生きづらさがあり、ただネット・ゲームを制限するだけでは別の問題が出てしまうので、ネット・ゲームに代わるものや、悩みを話せる仲間が必要なんです。キャンプではリアルな体験を楽しむだけでなく、生活習慣を見直し、依存行動を改善するためのプログラムにも取り組みました。
―プログラムはどんなことを?
1日の行動内容を時間軸に沿って書き出す「タイムスケジュールワーク」では、日々のネット・ゲームの使用状況を目に見える形にして、ネット・ゲームをすることで得ているものと失っているもの、これからの人生をどう生きたいかについて考えました。公認心理師の先生を講師に招いたプログラムも用意し、依存の引き金となるストレスや感情のコントロール法を教えてもらいました。また、依存症の人は自己肯定感が低く本音を話せない傾向があるので、自分を好きになるトレーニングもしました。
―参加者は何を感じたのでしょう?
自分自身を客観的に見つめる時間になったようで、「ゲームをすることでいかに生活を犠牲にしていたのかが分かった」「ネット・ゲームが自分にとって何なのか考えられた」という感想がありました。「日常の大切さをあらためて感じた」「焚火をして星を見る時間は幸せだった」という声もあり、目の前のことを純粋に楽しめたのだと思います。
―みんないい体験ができたみたいですね。
キャンプではゲーム依存のグレイス・ロード入寮者が体験を話す時間もつくりましたが、苦しみから少し抜け出している経験や、新しい生き方をしている経験を聞くことで、参加者の可能性が広がったと感じています。「自分自身の問題に向き合う姿、前向きな考え方を見習わなければと思った」「後悔した先にも道がある。そんな道を歩いてみてもいいと思った」という感想を聞き、当事者がメッセージを伝える大切さをあらためて感じました。