Interview list
■施設につながって
正直になって人生が変わった
―依存症は生きづらさの問題が背景にあるということですが、坂本さんの生きづらさはどういうものなのでしょうか。
僕の生きづらさの根底にあるのは、寂しさです。子どもの頃を振り返ると、両親は仕事が忙しく、僕はいつも家で一人、テレビを見たりゲームをしたりして過ごしていました。留守番中の冷たい空気に包まれているような感覚を、今もよく覚えています。母が帰ってくると、急いで玄関まで走っていって抱きついていました。そんな寂しさが変な方向に向かってしまって、学校では友達を威圧したりいじめたりしたこともありました。
―どうしてそんな問題行動を?
親の関心を引きたかったからです。特に父の。高学歴でスポーツ万能な父に比べ、僕は人より努力しないとみんなに追いつけませんでした。だから勉強もスポーツも頑張って、成績の順位を上げて、入部当初は一番下手だった野球部ではレギュラーになりました。でも、父に褒められたことは一度もありません。父は僕に関心がなく、父子関係は希薄なものでした。とにかく認めてほしくて、やりたくないことでも親が喜んでくれるなら頑張りました。看護師になったのも、母と同じ職業で、父も認めてくれると考えたからでした。
―その生きづらさがゲームやギャンブルとどう結びついたのでしょう?
父に認めてもらえない僕は、小さい時から自分には何の才能もないと思い、いつも人と比べて挫折感を味わっていました。それが、ゲームやギャンブルで勝つと、万能感や優越感というものを味わえて、自分で自分を認められたんです。ゲームやギャンブルがまるでパズルのピースのように、僕の心の欠けている部分にはまりました。でも、ゲームやギャンブルにのめり込んでいた時は、そういう自分の心の状態が分かっていたわけではありません。
―どうやって心の状態に気づいたのですか?
グレイス・ロードに入寮して、同じ依存症の問題を抱える仲間と一緒に、回復プログラムに取り組んだことで気づきました。回復プログラムは「ミーティング」と呼ばれるグループセラピーが中心で、これは、自分の過去や問題などを正直に話し、仲間の話に耳を傾けるというものです。意見を言い合ったりアドバイスをし合ったりするわけではないのですが、自分の問題や欠点、隠れていた感情など、気づくことがたくさんあるんです。このミーティングや他の回復プログラムを通し、僕はゲームやギャンブルにのめり込むことで、寂しさを埋めていたことに気づきました。自分のことを正直に話せるようになったから分かったことです。
―正直に話すというのは、なかなか難しいことのように思いますが。
正直になるには時間がかかりましたね。実は、入寮して3カ月ぐらいで、施設で禁止されているお酒を飲むようになり、インターネットも使っていたんです。ばれなければいいし、ギャンブルさえしなければ問題ないと思っていました。ルール違反を続けてしばらく経った頃、仲間の一人が飲酒したことをミーティングで打ち明けたのですが、隠し続けていた僕には、正直になったその仲間が光り輝いて見えたんです。「俺もこうなりたい」という気持ちが沸きあがり、同時に「今まで俺は何をしていたんだろう」「何のためにここに来たんだろう」と自問自答しました。
―どんな答えが出たのですか?
ギャンブルをやめてさえいればいいわけではなくて、なぜ依存したのかという問題にしっかり向き合い、その問題を解決しないと、また元の生活に戻ってしまう。そう気づきました。僕も正直になろうと決めて、飲酒のこともネットのことも全部打ち明けました。
―正直に話したらどうでした?
隠し事も嘘も何も抱えていない状態は、とても気持ちがいいものでした。正直になるのは怖かったのですが、仲間は「お前のことを考えてくれている人はたくさんいる」と言葉をかけてくれました。正直になったことで、人と比べて苦しむこともなくなり、すごく楽に生きられるようになったと感じています。あの時正直になることができて、僕の人生は変わりました。